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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(さ)6号 判決

本籍

東京都港区赤坂新町五丁目二番地

住居

東京都板橋区板橋六丁目三六三七番地 佐々木イシ方

無職

佐藤三郎

昭和八年一月一日生

右の者に対する詐欺被告事件について昭和三一年一〇月一一日長野地方裁判所松本支部の言渡した確定判決に対し検事総長佐藤藤佐から非常上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決が本件につき刑法第二五条第二項を適用した部分を破棄する。

理由

検事総長佐藤藤佐の非常上告申立理由は後記のとおりである。

被告人が前に禁錮以上の刑に処せられその執行猶予中罪を犯したときは、一般に、これに対し刑の執行猶予を言い渡すことは許されないのであつて(刑法二五条一項)、ただ、被告人に対し一年以下の懲役又は禁錮を言い渡す場合に限り再び執行猶予を言い渡し得るに過ぎない(同条二項)こと、いうまでもないから、判決において、被告人を懲役一年に処し、これに対し再度の執行猶予を言い渡すなら別であるが、被告人の罪状が懲役二年に値するものとして被告人に対し懲役二年を言い渡しながらその執行を猶予する言渡をすることは刑法二五条に違反するものといわなければならない。

本件記録を調べてみると、原裁判所である長野地方裁判所松本支部は昭和三一年一〇月一一日右被告人及び被告人吉田嘉晴に対する詐欺被告事件について、「右被告人両名は共謀の上、昭和三一年五月一八日頃諏訪市西大手町七四九番地若増パン有限会社において、同会社代表取締役山下嘉達に対し真実労働新聞社の外交員でないのに、ある様に装い「労働新聞社の者だが新聞を継続して取つて貰い度い」と申向け、同人をしてその旨誤信せしめ、因て即時同所において同人より新聞購読料名下に金額二〇〇〇円、同人振出、支払場所、長野県商工信用組合の小切手一枚を受取り之れを騙取した外、同三〇年二月三日頃より同三一年六月二日頃までの間(別紙一覧表記載の如く)前後六五回に亘り、真実労働新聞社又は労政保衛新聞社の社員でないのに、ある様に装い、新聞購読方を申入れ被害者を欺罔し、新聞購読料名下に合計九九、〇〇〇円を各騙取したものである。」との事実を認定し、これに対し刑法二四六条一項、六〇条、四五条、四七条、一〇条、二五条、二五条ノ二第一項後段、刑訴法一八一条一項但書を適用し、主文において被告人両名をいずれも懲役二年に処する。但し右裁判確定の日から三年間何れも右刑の執行を猶予する、被告人佐藤三郎を保護観察に付する」との旨の判決を言い渡し、右判決は上訴期間の徒過により昭和三一年一〇月二六日確定するに至つたこと明白であり、原判決はこの擬律中で単に刑法二五条を適用する旨を示し同条二項を適用する旨を明示していないけれども、後記の如く前科があり、現に執行猶予中である事実を認定しながら、右刑の執行猶予を言い渡しているのであるから同条二項を適用した趣旨を判示したものと解すべきであり、なお記録によれば、被告人佐藤三郎は昭和二八年一二月二四日豊島簡易裁判所において窃盗、横領罪により「懲役一年に処する。未決勾留日数中一〇〇日を右本刑に算入する、但し本裁判確定の日から三年間右本刑の執行を猶予する。」旨の判決言渡を受けこの判決はその後確定し、本件松本支部での審判当時は同被告人はこの懲役刑の前科を有しこれにつき刑の執行猶予中であつたこと、そしてこのような前科及び執行猶予判決のあつたことについては原審第三回公判で右被告人についての各前科調書、身上取調書等の取調があり原判決がこの前科と判決のあつたことを認定した趣旨であることも原判決がその擬律中で刑法二五条ノ二第一項後段を適用した趣旨に照らし推認することができる。

してみれば、被告人が豊島簡易裁判所において窃盗、横領罪により昭和二八年一二月二四日言い渡された懲役一年、但し三年間執行猶予の右確定判決により刑の執行猶予中であることを本件原確定判決が認めながら擬律の部分において刑法二五条二項、二五条ノ二第一項後段を適用し被告人に対し「被告人佐藤三郎を懲役二年に処する。但この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。被告人佐藤三郎を保護観察に付する。」との主文を言い渡したことは原判決の審判が刑法第二五条二項の趣旨に違反するものというのほかなく、従つて、原判決が同条同項を適用した部分は破棄を免れない。但し、原判決は被告人のため不利益なものではないから刑訴四五八条一号本文に従い主文のとおりその違反した部分のみを破棄すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

検察官 安平政吉出席

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 高橋潔)

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